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1er amour 初恋

カナダ映画 (2013)

ロイク・エステーヴ(Loïc Esteves)は、撮影時13歳もしくは14歳。映画の設定と同年代だ。海外の映画で邦題で「初恋」と入ったものは、『Trocadéro bleu citron(小さな初恋)』(1978)、『Lucas(ルーカスの初恋メモリー)』(1986)などが頭に浮かぶが、前者のLionel Meletは出演時恐らく10歳、後者の故Corey Haimは同14歳。内容的に初恋を扱った 『Melody(小さな恋のメロディ)』(1971)のMark Lesterは同12歳、『Little Manhattan(小さな恋のものがたり)』(2005)のJosh Hutchersonは同13歳、『Le temps des amours(マルセル少年と淡い恋の思い出)』(2007)のRichard Oiryは同10歳と、ローティーンの初恋は結構映画化されている。シチュエーションは様々だが、何れも人生で初めての淡い恋を暖かく描いている点では変わらない。しかし、この『初恋』は違う。はっきり言って、ミスディレクションのためにわざとこの題名を選んだのではないかと疑いたくなるほど、内容と異なっている。確かに、前半は、ロイク演じるアントワーヌの4歳年上のアナに対する淡い想いを描いている。しかし、それはあまりにも意外で、あまりにも残酷な展開によって粉々に打ち砕かれ、家庭そのものも崩壊の危機に瀕する(結末は明示されていないので、崩壊したかもしれない)。そんな状況にあっても、アントワーヌはアナを嫌悪しつつも、自殺しかけると必死で救う。それはもう、愛というよりは、罪を許した上での哀れみでしかない。そういう意味では、アントワーヌの心の激しい揺れと、最後の傍観を描いているとは言えるが、それを『初恋』と、さらりと言ってのけてしまうのは、アントワーヌにとってあまりに酷だ。『人生最大の危機』の方が内容には即している。ただし、これでは身も蓋もない。最初から構えて観てしまうので、驚愕の楽しみは奪われる。『初恋』という題名は、憎いほど上手な選択かもしれない。

13歳のアントワーヌと両親は、それまで2年間ヨーロッパに暮らしていたが、故郷のカナダに腰を落ち着けることにし、学校や仕事の始まる前の夏休みを湖畔で家族で過そうと、サマーハウスを借りることにした。いざ家に着くと、隣の家には若い女の子用の水着が干してある。年頃のアントワーヌは、それを見て心がはずむ。隣の家を借りていたのは、偶然、父が大学時代に交際していて途中で姿を消した女性とその娘のアナだった。アントワーヌは、親同士が顔見知りなので、交際の機会が増えると喜ぶ。さっそく、翌日、昼食招待することになり、アントワーヌがメッセンジャーとして隣に行かされる。そこで、アントワーヌはアナから直接声をかけられる。そして、自分が4つほど年下で、アナには付き合っている年頃の男性も多いことを知る。それでも、隣同士なのだから、もっと親しくなれる可能性は高い。アントワーヌは、アナに誘われ、夜にアナの家を訪れる。2人きりで過せると思いきや、期待に反して、その場には2人の大学生がいた。3人は麻薬を常用しているようで、アントワーヌも強制的につき合わされる。アントワーヌの出る幕はあまりなかったが、アナとより親密になれたことは確かで、朝帰りで母から叱られても幸せに浸る。アントワーヌのサマーハウスでの生活は、時にひとりぼっち、時に母から勉強を強いられ、楽しいばかりではなかった。ある時は、せっかくアナと一緒に父のボートで町に行ける機会がつぶされてしまい、父とアナだけで出かけることもあった。そして訪れる破局。アントワーヌが、家の壁にぶつかって死んだ小鳥を埋めていると、アナが気付かずに近くを歩いて行く。そっと尾行したアントワーヌが見たものは、父とアナの密会、そして、激しいセックスだった。衝撃のあまり彷徨するアントワーヌ。それ以後、アントワーヌからは快活さが一切消える。そして、父やアナを徹底的に避ける。こんな状態に終止符を打ったのは、父とアナの痴話喧嘩。アナはより強い絆を求めるが、父は妻を失うことを恐れて厄介払いしようとする。アントワーヌは、偶然、屋根の上にいて現場を見てしまう。そして、屋根の上にいることを母に見つかったことから、父はアントワーヌに痴話喧嘩を聞かれたと悟り、口封じをしようとする。ところが、父が愕然としたのは、息子がセックス・シーンまで見ていたこと。その場は、何とか口止めに成功するが、母は、別ルートからその事実を知ってしまう。一方、アナは、自分が「別ルート」の発信源であるにもかかわらず、アントワーヌの母に知られたことに絶望して死のうと(?)湖に飛び込む。それを救ったのはアントワーヌだった。アントワーヌにとって、父は許せなかったが、初恋の相手であるアナは、どれだけ罪が深くても「赦し」を与えることはできた。

ロイク・エステーヴは、カーリーヘアで濃い青色の瞳の少年。今はもう成人なので、映画出演はこれ1本のみ。前半の淡い恋の段階では印象は薄いが、カタストロフィーの後の形相は、他ではなかなか見られない。憧れ~絶望と憎悪~赦しの3段階を80分で演じなくてはならないので大変だが、演技は素晴らしい。


あらすじ

映画の冒頭、作家の父と記者の母、それに13歳のアントワーヌを乗せたモーターボートが水面を走っている(1枚目の写真)。会話は何もないが、雰囲気から、仲の良い家族だと分かる。ボートは舟着き場に着き、母は2個、父は4個、アントワーヌは1個の荷物を持って桟橋を渡る(2枚目の写真)。並木をくぐると、サマーハウスが見えてくる。母が、「写真で見たより大きいわね」と言うので、初めてここに来たことが分かる。父:「完璧だな」。そして、家が映る(3枚目の写真)。
  
  
  

アントワーヌは、家に入らず、隣のサマーハウスに興味を抱く。玄関に赤いビキニの水着のトップとボトムが干してある(1枚目の写真、矢印)。同年代の女の子がいるかもしれない。父と母は、さっそく水着に替え、湖の岸で戯れている。アントワーヌは1人取り残され、雑草の茂みの中から父母の姿を遠くから見ながら、手持ち無沙汰にしている。そのうち、思い付いて、隣のサマーハウスにこっそりと近付き、家の角から南側を覗くと、そこには女の子が水着で日光浴をしていた(2枚目の写真)。楽しい夏になりそうだと思い、アントワーヌの顔はほころぶ(3枚目の写真)。気配を感じた女の子が振り向くと、慌てて逃げ出すところは可愛い。
  
  
  

一家3人で、芝生の上で軽いランチを取っていると、そこに2人の女性が近付いて来る。一人は日光浴をしていた女の子だ。大人の方の女性が、驚いたように、「フランソワ!」と声をかける。父の方も、「ジャンヌヴィエーヴ?」と訊く〔Genevièveの発音は、フランスではジュヌヴィエーヴ。カナダでは訛っている〕。「ここで何してるの?」。「この小屋をしばらく借りたんだ」。「私、お隣なのよ」。父は、妻のマリーと息子を紹介する。例の女の子は、ジャンヌヴィエーヴの娘のアナだった(1・2枚目の写真)。アントワーヌにとっては、何もしなくても知り合いになれラッキーだった。お隣の2人は、「じゃあ、また後で」と言い残して去って行く。3人だけになり、アントワーヌは、「長い付き合いなの?」と父に尋ねる。「一緒の大学にいた。変わった娘(こ)でね、講義が休講になった時には、マルクス主義の活動家と 学部長室を占拠してたな。警官隊に連れ出されたよ。ある日、姿を消したんだ。ロシア人の俳優と付き合ってて、一座と一緒に突然いなくなった」。この話で、マリーはほっとしたことだろう。大学時代の「彼女」ではなかったわけだ。だから、「食事に招待しましょ」と提案する。夫は賛成。そこで母は、アントワーヌに、「後で、お隣に行って、明日のランチに誘ってらっしゃい」と頼む。
  
  
  

アントワーヌは、しばらくして隣を訪ねる。「両親が、明日のお昼に食事にいらして下さいって」(1枚目の写真)。「ええ、喜んで」。そこに、アナが入ってくる。「あら、アントワーヌ」。アントワーヌは、言葉が出てこないので、そのまま帰ろうとする。ジャンヌヴィエーヴは、そんなアントワーヌを呼びとめる。「見せたいものがあるの」。そして、アナに、「小屋に行って写真の箱を取ってきて」と頼む。「一緒に来る?」。アントワーヌは当然一緒に行く。物置で対峙した2人。アナは、「年はいくつ?」と訊く。「14」。じっとみつめられて、「もうすぐ」と付け加える。相手が自分より年上なので、サバを読んだのだ。アナがにやりとする。「この前、どうして私のこと見てたの?」。やっぱり見られてしまったのだ。アントワーヌは恥ずかしくて何も言えない(2枚目の写真)。アナも、分かっていて訊くのだから意地が悪い。もう一度にやりとすると、「いつまでここにいるの?」と訊く。「夏じゅう」。「退屈したら、遊びに来なさいよ。近所とはみんな知り合いなの」。そう言うと、棚の一番上にある小さな箱を取ろうとする。足が滑って、アントワーヌにぶつかる。「ごめん」。アントワーヌにも ようやく笑みが浮かぶ(3枚目の写真)。手を引かれて家に戻る。ジャンヌヴィエーヴが見せたのは大学生時代の写真。その時、大学生くらいの男性が入ってくる。如何にも顔見知りといった感じでキスを交わす。それを見たアントワーヌは、そそくさと退散する。
  
  
  

翌日、アントワーヌはアナを意識してスランドカラーのシャツを着てきた。父からは、「おい、首相を迎えるんじゃないんだぞ」と冷やかされる。隣の2人がやってくる。緊張した顔だ(1枚目の写真)。天気がいいので外で食べることになる。会話の中で、①母マリーは2年間、記者〔原文は、“reporter”だけなので詳しくは不明〕としてヨーロッパの3つの都市を転々とした〔アントワーヌは3度転校したことになる〕。そろそろ、アントワーヌを落ち着かせたい。②父フランソワは、これまで母と一緒に暮らしながら小説を書いていたが、秋からは教師に戻る〔“enseigner(教える)”としか言わないが、後でジャンヌヴィエーヴが、“profs de littérature(文学の教授)”という言い方をするので、大学かもしれない〕、③アナは9月から“cégep”〔ケベック州特有の大学基礎教養機関)”行く→高校3年に相当→17歳〕、の3点が分かる。アナが話題になると、アントワーヌの目はアナに釘付けだ(2・3枚目の写真)。
  
  
  

数日後の夕方、アントワーヌが家を出て行く。母:「どこに行くの?」。「アナと映画を観るんだ」。隣まで行き、ノックするとアナが出てきて頬にキスする(1枚目の写真)。幸先よく、しかもアナと2人きり。アナに手をつながれて入っていくアントワーヌの顔は如何にも幸せそうだ(2枚目の写真)。案内された先には、2人の大学生がいた。1人はアナとキスしていた「憎い奴」だ。アントワーヌの顔が一気に曇る。しかも、キスしていた男は、紙を丸めると、『アンナ・カレーニナ』のフランス語版の本の上に乗せたコカインを鼻で吸っている。もう1人は、オレンジジュースに何か粉(LSD?)を入れている。ジュースは男2人が回し飲みし(3枚目の写真、赤色の矢印は麻薬入りジュース、黄色の矢印は普通のタバコか麻薬入りタバコ)、アントワーヌにも、飲めとばかりに差し出される。「いらない」。
  
  
  

男は笑って強要しなかったが、アナがグラスをテーブルから取り上げ、「信じて、気持ち良くなるわ」と強く勧める。「君のママはどこ?」。「置き去りなの。ほら、飲んで」。「それ何?」。「幸せの粉よ〔Le bonheur en poudre〕」。子供にこんなものを強要するとは、アナはかなりの不良だ。アントワーヌは、断りきれずに飲んでしまう(1枚目の写真)。麻薬の影響で、2人の大学生とアナは抱き合うが、アナは一線を越えない(2枚目の写真、侵入しようとする手を払いのける)。一方のアントワーヌは、ただ茫然として見ている。アナは、ぐったりしたアントワーヌの顔にミネラルウォータをかけ、指で顔を擦って意識をはっきりさせる。大学生が、「吸い込め」と言ってタバコを渡す(3枚目の写真)。一口吸ってすぐにやめる。その後、すぐにアナが吸いながら踊り始めるので、普通のタバコではなさそうだ。
  
  
  

その後、4人は、熱冷ましに、真夜中の湖に出かける。月明かりだけを頼りに、下着だけになって水に入る(1枚目の写真)。ほてった体には気持ちが良い。水浴びの後は、湖畔の焚き火の横に寝転ぶ。アナは、「あんたの両親、うまくいってる? お互い愛してる?」と訊く。「そう思うよ」(2枚目の写真)。「私のママと、あんたのパパ、恋してたと思う?」。「知らないよ」。「うまくいってたんじゃないかな。あんたのパパ、いい感じだもん。私のパパは2歳の時、いなくなった。時々、自分に言い聞かせたわ… どこかに捕らえられてて、そのうち迎えに来るんだって。実際は、ただの弱虫野郎なんだろうけど」。アントワーヌは慰めたいのだが、気が引けて何も言えない。そんなアントワーヌの顔を見上げると、アナは、アントワーヌの髪を触りながら(3枚目の写真)、「あなたのこと好きよ。可愛いもの」と微笑む。フランス語の会話なのに英語の“cute”が使われているが、「可愛い」というのは、年下に見られていることを意味する。しかし、好かれていることは確かなので、嬉しさの方が大きい。
  
  
  

麻薬が抜けきらず、寝不足もあって、アントワーヌはフラフラしながら明るくなり始めた野原を歩いている。家のドアをそっと開け、裏口のすぐ脇にある自分の部屋に入り込む。窓の外を眺めながら、生まれて初めてだった体験を振り返り、汗まみれのシャツを脱ぐ(1枚目の写真)。そしてパンツ1枚になるとベッドに横になり、タオルケットをかけると、アナのことを考えながらマスターベーションを始める(2枚目の写真)。いきなりカーテンが開くと〔ドアはない〕、母が、「朝の5時よ!」と怒って飛び込んでくる(3枚目の写真)。慌てて体を起こしたアントワーヌは、「スター・ウォーズを全部観てて、時間に気付かなかった」と言い逃れる。幸い、行為はバレずに済んだ。
  
  
  

アントワーヌは、朝遅くなって目を覚ますと、冷蔵庫からオレンジジュースの瓶を出し、システムキッチンの端に座ると、ラッパ飲みする。そこに父がやってきて、「大変な朝だな〔C'est dur à matin〕」と皮肉を言う。「ママはどこ?」。「町に行った。運が良かったな。帰る頃には冷静になってるさ」。この言葉に、アントワーヌが微笑む(1枚目の写真)。次のシーンは、2人は家の外のテーブルに座り、アントワーヌは軽い朝食を食べている。父は、「気付いていないと思ってるなら、間違いだぞ」と前置きし、「いいから、話すんだ。昨夜は、何をしたんだ? 誰にも言わないから」と訊く。「パーティみたいなもの。終わってから 泳ぎに行った。そこの岸辺だよ」。「パーティには誰がいた?」。「アナの友だち。彼女、すごくきれいだった」(2枚目の写真)。父は、その話で満足したようだ。その時、隣のジャンヌヴィエーヴから父に声がかかる。劇の相談がしたいと持ちかけられ、父はアントワーヌに「服を着ろ」と言って、隣に出向く。戸口で抱き合う2人を見て(3枚目の写真)、アントワーヌの顔は厳しくなる。昨日の夜のアナの話は本当だったのだろうか?
  
  
  

アントワーヌは、1人家の中で、携帯でこっそり撮影したアナを見たり、子猫とじゃれ合ったりと、無為な時間を過す。午後になると、アナが湖に出かけるのを見つけ、何となく後を追っていくと、岸辺で、アナと、アナがキスしていた大学生が言い争いをしている。「どうなってる? 俺が何をした? チクショウ、話せよ!」。「あんたに関係ない〔Ç'a rien à voir avec toi〕」。「相手は誰だ?」。「あんたじゃない〔C'est pas à toi〕!」。隠れて見ているアントワーヌの顔は、何となく嬉しそうだ。しかし、その後、しばらくして出会ったアナは、アントワーヌにきわめてそっけなかった〔2人の服が、さっきと違っているのは、撮影ミス→次のシーンで、アントワーヌの服が元に戻っている〕。期待したのに冷たくあしらわれたアントワーヌは、舟着き場の先端に腰を下ろし、所在なげに足先を水に浸している(1枚目の写真)。その後、芝生に寝転んで本を読んでいると、ボートで町に買い物に行ってきた母が戻って来る。母は、今朝のことには何も言及せず、「お土産があるわ」と言うと、上から雨のようにお菓子を降らせる(2枚目の写真)。「パパはどこ?」。「散歩に行ったよ」。その後、2人がボートで釣りをしていると、いきなり水の中から父が姿を見せる。びっくりする2人。「1時間半泳いでた。腹ペコだ。何か釣れたか?」。母が、アントワーヌの釣った魚を見せる。アントワーヌは、父から褒められて嬉しそうに笑う(3枚目の写真)。その後、父は母にキスしようとし、そのたびに、母は魚とキスさせようと じゃれ合う。次のシーンでは、アントワーヌも水着姿になり、父と一緒に湖で立ち泳ぎをしている。「私に勝ったら、20ドルやろう」。そして、2人は対岸に向かってクロールで競争を始める〔アントワーヌが泳ぎの巧いことを示すために挿入したシーンであろう〕
  
  
  

次は、子供らしいというか、定番の一コマ。アントワーヌが木の上からアナを観察しようと、必死になって登ろうとしている(1枚目の写真、木箱を2段重ねた上に乗っている)。通りかかった父が、「昔からのやり方だが、ママに捕まったら痛い目に遭うぞ」と警告。「降りるよ」。しかし、父が去った後、どうにかこうにか登れたらしく、木の上からアナを覗いている(2・3枚目の写真)。しかし、努力も空しく、見られていると分かったアナはカーテンを閉めてしまう。
  
  
  

別の日。母が、アントワーヌに書き取りの勉強をさせている。しかし、彼は、心ここにあらずで、何も書こうとはしない。それに気付いた母は、叱らず、「後にしましょう」と言う。すぐに席を立つアントワーヌ。母は、外に出て行くアントワーヌに、「約束よ」と念を押す。アントワーヌがアナの家に近づいていくと、中からアナの怒った声が聞こえる。知った仲なので、ノックもなしでドアを開けて中に入る(1枚目の写真)。アナが怒っていたのは、町まで乗せていってくれるはずのボートが、キャンセルになったこと。非難されている相手は、さんざんだったパーティにいたもう一人の大学生。アナは、「他にボートなんてないしね」と言った後、アントワーヌを見てにっこりする。次のシーンでは、野外テーブルで話している父母のところに、アントワーヌがアナを連れて来る。「アナを乗せてあげられない?」。アナは本を買いに行きたいと、理由を説明する。父は「喜んでお供しよう」と言う。アントワーヌは、「僕も一緒に行く」と言うが、母は、約束したからダメという。がっかりするアントワーヌに、「約束は約束よ」〔ここでも、引っかかるのが服。アントワーヌと母の服は、勉強していた時とは全く違っている。意味もなく何度も着替えるとは思えないので、これも撮影ミスか?〕。数時間後、母とアントワーヌは勉強を終え、芝生で日光浴をしている。そこに、父のボートが帰ってくる(3枚目の写真、矢印はボート)。
  
  
  

不吉な前触れ。アントワーヌが1人でTVゲームをやっていると、ドンという小さな音がして、家の外壁に何かがぶつかった。アントワーヌが外まで確かめに行くと、地面には、小鳥が死んでいた。壁にぶつかって落ちたのだ。アントワーヌは死骸をそっと抱き上げる(1枚目の写真、矢印は小鳥)。そして、岸辺近くの砂地を掘ると、そこに埋めてやる(2枚目の写真)。小鳥のお葬式が済んだ時、カサりと音がして、頭上の小径をアナが歩いて行くのが見えた(3枚目の写真、矢印はアナ)。
  
  
  

ここで、アントワーヌは、ストーカーまがいの行為に出る。アナを尾行したのだ(1枚目の写真)。最後は、茂みの中に入り、こっそり近づいていく。太い木の下で、アナは男と待ち合わせていた。そして、男は、アントワーヌの父だった! アントワーヌは、いったい何だろうと不審に思ったことだろう。何やら親しげに話し合っている。いつ、あんなに親しくなったのか? きっと、ボートで買い物に行った時だ。アントワーヌはそう考えて、自分を納得させたのかもしれない。しかし、突如、2人はキスを交わす。これはもう尋常ではない。年の離れた男女による恋愛行為だ。しかも、その女の子にアントワーヌは淡い恋心を抱いている。2人の年上の恋敵がいなくなったと安心していたら、自分の父親がライバルになっている。2人のキスは激しさを増し、遂に、アナがひざまずくとフランソワのズボンを下ろしてフェラチオを始める。アントワーヌにその意味が理解できたかどうかは分からないが、父の裸の下半身が見えているので、ロクなことはしていないと想像できる。アントワーヌの顔は、アナに対する嫌悪と父に対する憎悪に歪む(2枚目の写真)。そして、最後に、2人が裸になって性行為を始めると(3枚目の写真)、アントワーヌは走って逃げ出す… 泣きながら。そして、茫然と、原野を徘徊する。
  
  
  

苦しみぬいたアントワーヌが帰途につく。足元はおぼつかない。家のドアの前に来ると、中から父の声が聞こえる。アントワーヌは、一瞬、入ろうかどうか迷う(1枚目の写真)。中に入ったアントワーヌに真っ先に声をかけたのは母。「今までどこにいたの?」。アントワーヌは肩をすくめる。そして、その場を動かず、無言のまま顔を背けている(2枚目の写真、右の方にアナや父がいる)。そして、何も言わずに3人の間を抜けて浴室に向かう(3枚目の写真)。アントワーヌは、お尻をついたままシャワーが頭からかかるにまかせ、考え込む。
  
  
  

キッチンで、5人が食卓を囲んでいる。4人は会話を楽しんでいるが、アントワーヌはアナと父を交互に睨みつけている(1枚目の写真)。会話の内容は、父とジャンヌヴィエーヴの過去の話なので割愛する。そのうちに、母が立ち上がり、「フランソワと私にも、大変な時があったのよね」と父を見下ろして肩に手をかける。「でも、お互いにずっと愛し合ってきたわ」。そう言うと、フランソワの膝の上に座って体を寄せる。これを見たアナは、立ち上がりながら「気分が悪い」と怒ったように言い(2枚目の写真)、さっさと出て行く。アナは、マリーに嫉妬したのだ。母:「どうかしたの?」。ジャンヌヴィエーヴ:「さあ。最近、あんな風なの」。父:「あの頃の君と似ている」。この言葉に我慢の限度を超えたアントワーヌは、さっと立ち上がり、母から、「どうしたの?」と訊かれ(3枚目の写真)、「疲れた」と言って部屋に閉じ籠もる。そこに、心配した母がやって来る。母は、てっきり、アナが突然退席し、そのことで息子が落胆したと思って励ましに来たのだ。「愛してくれない人を好きになっちゃうこともあるの。ママが16の時、一番の親友の年上のお兄さんに恋しちの。いつも彼のことで頭がいっぱいで眠れなかった。でも、彼には、ママなんかどうでもよかったの。彼が結婚した時、立ち直るまで1週間かかったわ。けど、そのわずか数年後、あなたのパパと遭ったのよ。人生で最高の瞬間だったわ」。そう言って、母はアントワーヌを抱きしめるが、アントワーヌの顔の表情は苦しみに歪んだままだ(4枚目の写真)。彼を抱いて慰めているのは、夫に裏切られた妻、そして、それが自分の母なのだから当然だろう。アントワーヌは口が裂けても、父の行為をバラして母を苦しめたくない。まさに三重苦だ。
  
  
  
  

恐らく翌日。外を歩いていたアントワーヌが家の前に来ると、電話の鳴る音がし、父の声がする。「おいおい。だめだ、できない。落ち着けよ…」。アントワーヌは、ドアをそっと開け、中に入り込むと、父の部屋に近づき、中の様子を窺う(1枚目の写真)。「いいか、落ち着くんだ」(2枚目の写真)「それは、できない。私の妻だからだ。彼女を愛してる」。そこで会話は終わる。
  
  

アントワーヌは、屋根の上に寝そべって考え込んでいる。父は母を裏切ったが、それは一時の浮気で、愛してることには変わりない。しかし、自分からアナを盗った憎き存在だ。この先どうしよう? そう考えていたのかもしれない。その時、アナが隣の家から出て、真っ直ぐこちらに向かって来るのが見え、アントワーヌは思わず体を起こす(1枚目の写真)。ここから先は、アントワーヌには見えない。アナは、乱暴にドアを開けると中に入って行く。声だけ聞こえる。父:「何事だ?」。アナ:「何て汚いの!」。「アナ、何しに来た?」。「あんな風に何人とやったのよ!」。「黙らんか!」。2人は外に出てきて、アントワーヌからも見えるようになる。「あたしが、あんたの一番の獲物だったワケ?」。「やめろ! 聞こえるじゃないか!」。「このクソ親爺!」。「黙れと言ったろ! これは2人だけの問題だ!」。そう言うと、父はアナを投げ飛ばす(2枚目の写真)。アナは、「クソったれの嘘付き!」と言って家に走って戻る。すると、そこに、母が反対側から現れる。「何があったの?」。「さあな。隣で口論してた」。その時、母の顔がまともにアントワーヌの方を見る(3枚目の写真、矢印)。「そこで、何してるの?」。その瞬間、父の顔がさっと変わる。すべて見られていたことに気付いたのだ。
  
  
  

その後の、食事は非常に気まずいものとなった。アントワーヌは、ずっと父を睨み続けている(1枚目の写真)。父にとっては針のむしろだし、母には何がどうなっているのかさっぱり分からない。結局、食事が手に付かなかったアントワーヌは、「お腹空いてない」と吐き捨てるように言って立つと、中に入って行った。母は心配して見に行こうとするが、父は、それを押し留めて自分で行く。変なことを妻に話されたら大変だからだ。アントワーヌは、ベッドに横になり壁を向いている。父は部屋に入って来ると、すぐそばに腰をかけ、手を伸ばして髪に触ろうとする。アントワーヌは、その手をはねのける。「さっき見たことは、心配するようなことじゃない」(2枚目の写真)「アナはすごく滅入ってて、注意を惹きたかったんだ。いろいろ問題を抱えているみたいで、理解するのは大変だ。時には、理解を超えることもある。不条理に思えるかもしれんが」。この身勝手な自己弁護にアントワーヌは頭にきたのであろう。背を向けたまま、「ママを愛してる?」と訊く。「もちろん… 何よりもな」。それを聞くと、アントワーヌは仰向けになって父を見ると、「なら、どうして彼女と寝たんだ?!」と非難する(3枚目の写真)。これは、父にとって予想外の驚愕だった。屋根から見られていたことなど、些事に等しい。アナとのセックスを息子に見られていたのだ。父は、妻に聞こえたら最後と思い、「しーっ」と言い、同じ質問をくり返して暴れるアントワーヌの体の上に覆いかぶさり、手で口を強く押える。そして、「私は… お前の母さんと別れたくない」と本音を打ち明ける(4枚目の写真)。そして、泣きながら人差し指を口にあて、これ以上叫ばないよう無言で頼む。口を覆っていた手をどけ、親子は目と目を見合う。しかし、それで少しでも心が通い合ったわけではない。父が、もう一度髪を触ろうとすると、その手は激しくはらいのけられた。父は部屋を出て行き、アントワーヌは再び壁を向く。
  
  
  
  

以前、アナにフラれた大学生が、芝刈りのアルバイトをしている〔一家が着いてしばらくしてから、数日ごとに1回30ドルで芝刈りをしている〕。その様子をアントワーヌがぼんやりと見ている(1枚目の写真)。母が近寄って行くと、大学生が母の耳に何かを囁きかける。すると、いきなり母が大学生の頬を叩く(2枚目の写真、矢印)。恐らく、アナが、一度はフッた大学生に、悔し紛れにすべてをぶちまけたのであろう。そして、大学生は その話を母に伝えた。アントワーヌにも、その察しがついた。母は、おぼつかない足取りで家に入っていく。アントワーヌにも声が聞こえてくる。「ほんとなの? アナと寝たの?」。「おいおい、何だ? 誰が言った?」。「彼女が、言いふらしてるわ!」。「いいか、そんなのは たわ言だ! 信じちゃダメだ、マリー! 彼女は狂ってる。母親と同じで、ノイローゼなんだ」(3枚目の写真)。「このゲス男!!」。「ほんとじゃない!」。「彼女を キチガイ呼ばわりするのね?!」。そう叫ぶと、母は夫の頬を2度引っぱたき、泣きながら離れて行く。
  
  
  

言い争う声を聞き、絶望したアナが家から飛び出して来る。心配になったアントワーヌは、すぐにその後を追いかける(1枚目の写真)。アントワーヌが、「アナ!」と呼びかけても、アナは走るのをやめない。そのまま湖に駆け込んでいく。つかまえようとするアントワーヌを、「放っといて!」と突き放す。「行かせてよ!」〔アナに、自殺するつもりがあったかどうかは分からない〕。しかし、アントワーヌは、人命救助式に、アナを後ろから抱えると、背泳ぎで岸に向かう(2枚目の写真)。アントワーヌは、岸近くまでアナを引っ張り上げ、心配そうに見る(3・4枚目の写真)。2人は見つめ合うが、そこにはどんな思いが交錯していたのであろう。アナは、アントワーヌがセックスシーンを見ていたことは知らない。だから、アントワーヌの、「裏切られた怒りを超えて、アナを助けた想い」にも気付いていない。恐らく、「前々から自分が好きな子が、助けてくれた」くらいにしか思っていないと見た方がいいであろう。だから、アナの悲しみに満ちた顔は、その「いい子」の父親とセックスしたことの罪悪感がメインであろう。一方、すべてを知っているアントワーヌは、なぜアナを助けたのであろう? アナへの「愛」は、すべてを赦すほど強かったのだろうか?
  
  
  
  

その後、アントワーヌはアナに肩を貸して草地の中を歩いて家に戻るが、途中でくたびれて座り込んでしまう。悲しそうな顔の2人が、再び じっと見合う。アントワーヌはアナの肩に手を当て、2人は額を合わせる(1枚目の写真)。異常事態の結果でなければ、とても良いシーンだ。アントワーヌにとっては、これが「赦し」なのであろう。この間、会話は何もない。それが、かえって2人の置かれた立場や、複雑な心情をストレートに表現している。2人は家の前まで来て別れる。アナは、アントワーヌの首にかけていた手を離す際、肩にそっと触れる。アントワーヌの顔にはあきらめしか見て取れない(2枚目の写真)。ここでも、別れの言葉はない。アントワーヌが薄暗くなってから家の前に行くと、中では、父と母が並んで座り、母が頭を抱えている。アントワーヌは、中に入らず、窓の外からじっと見ている。やがて、父が母の背中に手を伸ばし、母は、父の膝に頭をもたせかける(3枚目の写真、左側にガラスに反射したアントワーヌの姿がぼんやりと浮き出ている)。母は、父を許したのだろうか? 父は、すべてを話したのだろうか?
  
  
  

ここからは、映画の冒頭の逆となる。一家は、翌朝、サマーハウスを引き揚げる。アントワーヌだけは、アナの家を見ているが、母は、そそくさと舟着き場に向かって歩き出す(1枚目の写真)。この直後、窓辺に立ってアナが見つめているシーンがある。アントワーヌとアナの、生涯二度とないであろう最後の見つめ合いだ。3人は、ボートに乗るために桟橋を渡って行く。順番は、着いた時と逆だ。いっときでも早く離れたい母が先頭、アナに心残りのあるアントワーヌが最後だ(2枚目の写真)。最後のシーンは、モーターボートの中。来た時とは違い、アントワーヌと母は完全に離れている(3枚目の写真)。実は、この少し前に、母がアントワーヌの肩に手をかけようとして、はねつけられている。父と母はどのように和解したのだろう? アナが嘘付きという父の嘘を認めた上でなのか? それとも、父はすべてを告白したのか? アントワーヌが母を拒絶したのは、母が父と安易に妥協したからか? そして、最後に、この一家は、このあと どうなるのだろう? 疑問をいっぱい残したまま映画は終る。
  
  
  

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